STP分析入門:誰に、何を、どう届けるかを決めるフレームワーク
「良い商品なのに売れない」「頑張っているのに成果が出ない」。
ビジネスでも就活でも、この壁にぶつかる人は多いはずです。原因の大半は、「誰に届けるか」が定まっていないこと。全員に向けたメッセージは、結局誰にも刺さりません。
STP分析は、市場を分け(Segmentation)、狙いを定め(Targeting)、独自の立ち位置を築く(Positioning)という3ステップで、「誰に、何を、どう届けるか」を決めるフレームワークです。マーケティング戦略の出発点であり、ケース面接でも頻出のテーマです。
STP分析とは何か
STP分析とは、市場をセグメントに分け、ターゲットを選び、ポジショニングを決めるマーケティング戦略の基本フレームワークです。
フィリップ・コトラーが体系化した考え方で、マーケティングの教科書には必ず登場します。3つの頭文字をとってSTPと呼ばれています。
- S ― Segmentation(セグメンテーション): 市場を意味のある切り口で分ける
- T ― Targeting(ターゲティング): どのセグメントを狙うかを決める
- P ― Positioning(ポジショニング): 狙った市場で独自の立ち位置を築く
私がコンサルティングの現場で感じるのは、多くの企業が「S」と「T」を曖昧にしたまま、いきなり施策の話に入ってしまうことです。「誰に売るか」を決めずに「どう売るか」を議論しても、打ち手がブレるのは当然です。STPは、その手前の「そもそも誰に届けるのか」を整理するためのフレームワークです。
図解1: STP分析の3ステップ ― 市場を分け、狙いを定め、独自の立ち位置を築く
なぜSTP分析が重要なのか
ビジネスの現場で
「ターゲットは30代〜50代の男性です」。こう言って戦略を立てた気になっている企業は少なくありません。しかし、30代前半の独身男性と50代の経営者では、抱えている課題も、響くメッセージも、使う媒体もまったく違います。
STPが優れているのは、「なんとなくのターゲット設定」を「根拠のあるターゲット選定」に変えられる点です。限られた経営資源をどこに集中するかを決める。これは経営判断そのものです。
就活・キャリア形成で
ケース面接で「この商品のマーケティング戦略を考えてください」と言われたとき、いきなり広告やSNS施策の話を始めると、面接官の評価は低くなります。まずSTPで「誰に届けるか」を構造的に整理してから施策に落とす。この順番を踏めるかどうかが、合否を分けます。
自己分析にも応用できます。就活市場を「業界×職種×企業規模」でセグメントに分け、自分の強みが最も活きるセグメントをターゲットに選び、「○○ができる人材です」とポジショニングする。STPの考え方は、マーケティングだけのものではありません。
STP分析の3ステップと具体的な進め方
ここからは、S→T→Pの順に具体的な進め方を見ていきます。
ステップ1: Segmentation ― 市場を分ける
セグメンテーションとは、市場を「意味のある切り口」でグループに分けることです。切り口には主に4つの変数があります。
- 地理的変数: 地域、都市規模、気候、文化圏
- 人口動態変数: 年齢、性別、所得、職業、家族構成
- 心理的変数: ライフスタイル、価値観、パーソナリティ
- 行動変数: 購買頻度、利用状況、ロイヤルティ、求めるベネフィット
ポイントは、「分けること自体が目的ではない」ということ。セグメンテーションの良し悪しは、次のTargetingで「狙う・狙わない」の判断ができるかどうかで決まります。切り口を変えても同じような顧客像しか出てこないなら、分け方を見直す必要があります。
ステップ2: Targeting ― 狙いを定める
セグメントに分けたら、次はどのセグメントを狙うかを決めます。ターゲティングのパターンは3つあります。
- 無差別型マーケティング: 全セグメントに同一のアプローチ。規模の経済が活きる場合に有効
- 差別型マーケティング: 複数セグメントにそれぞれ異なるアプローチ。資源が必要だが、各セグメントへの最適化が可能
- 集中型マーケティング: 1つのセグメントに経営資源を集中。中小企業やスタートアップに向いている
ターゲットを選ぶ際の判断基準は3つです。市場の魅力度(規模・成長性・収益性)、自社の競争力(強みが活きるか)、そして到達可能性(実際にアプローチできるか)。この3つを満たすセグメントを選ぶのが基本です。
ステップ3: Positioning ― 独自の立ち位置を築く
ポジショニングとは、ターゲット顧客の頭の中に「あの会社(商品)は○○」という認知を築くことです。具体的には、ポジショニングマップを使います。
- 競合を特定する
- 差別化の軸を2つ選ぶ(価格×品質、機能×デザインなど)
- 自社と競合をマップ上に配置する
- 空白のポジションを探す
- 「○○といえば△△」と一言で表現できるか検証する
ポジショニングで最も大事なのは、「何をしないか」を決めることです。すべての軸で1位を目指すのは不可能。何かを捨てて、何かに尖る。そこにポジショニングの本質があります。
図解2: STP分析の進め方フロー ― セグメンテーション変数、ターゲティングパターン、ポジショニングの手順
実践のコツ・よくある落とし穴
YOHACKを立ち上げたときのSTP分析
私がYOHACKを創業するとき、最初にやったのがSTP分析でした。
コンサルティング市場をセグメントに分けると、企業規模×課題領域×支援スタイルという切り口が見えてきます。大企業×戦略立案×レポート提出型は、MBBのような大手戦略ファームの領域。大企業×IT導入×常駐型は、SIer系コンサルが強い。では中堅企業×DX推進×伴走自走型はどうか。ここは意外と空白でした。
ターゲットは「DXの必要性はわかっているが、コンサルに頼んでも報告書が残るだけだった」という経験を持つ中堅企業の経営者。ポジショニングは「戦略から実行まで一気通貫、ベンダーに依存しない、クライアントが自分で走れるようにする」。これが今のYOHACKの立ち位置です。
STPをやらずに「とりあえずコンサルやります」と始めていたら、大手ファームと同じ土俵で勝負することになり、差別化できないまま埋もれていたと思います。
よくある間違い
- セグメンテーションが粗すぎる: 「20代女性」のような大きすぎるくくりでは、施策の方向性が定まりません。「都市部在住・共働き・時短ニーズが高い20代後半の女性」まで絞って初めて、具体的な打ち手が見えてきます
- ターゲットを「絞れない」: 「このセグメントも捨てがたい」と全方位に手を出すと、結局どこにも刺さらない。絞ることは「捨てること」ではなく「優先順位をつけること」です
- ポジショニングが自社目線になる: 「高品質・低価格・高サービス」を同時に謳う企業がありますが、ポジショニングは顧客の頭の中の話。「あの会社は何が一番の特徴か」を一言で答えられないなら、ポジショニングは機能していません
図解3: ポジショニングマップの例 ― コンサルティング業界におけるYOHACKの立ち位置と空白ポジション
関連するフレームワーク・思考法
STPを学んだら、以下のフレームワークも押さえておくと相乗効果があります。
4P分析(マーケティングミックス)
STPで「誰に、どう位置づけるか」を決めた後、4P(Product, Price, Place, Promotion)で具体的な施策に落とし込みます。STPなしに4Pを議論しても、施策がバラバラになります。
3C分析
STPの前段階として、3C(Customer, Competitor, Company)で市場環境を把握しておくと、セグメンテーションの切り口が見えやすくなります。
SWOT分析
STPのTargetingで「自社の強みが活きるか」を判断するとき、SWOT分析で整理した自社の強み・弱みが判断材料になります。
就活の場面では、STPの考え方で自分自身のポジショニングを整理し、4Pの考え方で「自分をどう売り込むか」を設計する、という流れが特に有効です。
まとめ
STP分析は、「誰に届けるか」を決めるためのフレームワークです。市場を分け、狙いを定め、独自の立ち位置を築く。この3ステップを踏むことで、施策に一貫性が生まれ、限られたリソースを最大限に活かせるようになります。
まずは、身近な商品やサービスを一つ選んで、STPで分析してみてください。「この商品は、どんな市場セグメントの、どんな人に、どんな立ち位置で届けられているか」を考えるだけで、マーケティングの解像度が一段上がります。ケース面接の練習にもなります。
著者: Sam(柴山 治)
株式会社YOHACK 代表 | コンサルタント | エンジニア | 映像クリエイター | 著者・監修者
SIerでシステムを作り、ファームで戦略・業務・ITの提案を行い、
事業会社で「提案を受ける側」を経験し、
ファームに戻って経営の意思決定に関わり、そして創業しました。
DXのバリューチェーンを発注側・受注側の両方から見てきた経験が、
私のコンサルティングの土台になっています。
ワシントン大学フォスタービジネススクールMBA修了。
著書『日本型デジタル戦略』(クロスメディア・パブリッシング)等。
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