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DXを成功させるSAP活用|2027年問題を経営改革の起点にする方法

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SAP ERPの保守サポート終了を控え、多くの企業がS/4HANAへの移行を迫られています。しかし、この「SAP 2027年問題」を単なるシステム更新と捉えてしまうと、大きな機会を逃すことになりかねません。本記事では、SAP移行を経営改革の好機として活かすための視点と、中堅・中小企業が押さえるべき実践ポイントを解説します。

SAP 2027年問題とは?押さえるべき3つの本質

SAP 2027年問題とは、SAP社が従来製品「SAP ERP」(ECC 6.0)の標準保守サポート(メインストリームメンテナンス)を2027年末で終了すると発表したことに端を発する経営課題です。当初は2025年末での終了が予定されていましたが、顧客からの要望により2020年2月に2027年末へと延期されました。

この2027年末という期限が適用されるのは、Enhancement Package 6(EHP6)以上を導入しているユーザーに限られます。 EHP0〜5を使用しているユーザーの標準保守は2025年12月31日で既に終了しており、延長保守オプションも提供されません。自社がどのEHPを適用しているかを確認することが、対応計画の第一歩となります。

参考ページ:SAP、SAP S/4HANA®のイノベーションに対するコミットメントを延長し、SAP® Business Suite 7の保守方針を明確化して選択肢を提供 - SAP Japan プレスルーム
参考ページ:SAP Support - Maintenance 2040

この問題の本質は、単なる「システムの期限切れ」ではありません。経営者が押さえるべきポイントは以下の3点です。

  1. セキュリティパッチや法改正対応が提供されなくなる

  2. 延長保守は割高

  3. 基幹システムを見直す機会を失う

1. セキュリティパッチや法改正対応が提供されなくなる

第一に、保守終了後もシステム自体は動き続けるものの、セキュリティパッチや法改正対応(税制改正、インボイス制度等)が提供されなくなる点です。これはコンプライアンスリスクに直結します。保守終了後は「カスタマー・スペシフィック・メンテナンス」という限定的なサポートフェーズに自動移行しますが、新規のセキュリティノートや法改正パッチは提供されず、SLA保証もなくなります。

出典:SAP ECC6.0メインストリームメンテナンス終了とカスタマースペシフィックメンテナンスのリスク - Rimini Street

2. 延長保守は割高

第二に、延長保守(Extended Maintenance)という選択肢はあるものの、費用が割高になるうえ、新機能の追加は行われません。具体的には、現行の保守基準料金に2パーセントポイントの追加料金が必要となります(SAP Enterprise Supportの場合、ライセンス料の22%から24%へ、約9%のコスト増加)。延長保守は2028年1月から2030年12月末までの3年間提供されますが、その後は再びカスタマー・スペシフィック・メンテナンスへ移行することになります。競合他社がS/4HANAの先進機能を活用してDXを推進するなか、自社だけが旧システムに留まることは競争力の低下を意味します。

出典:「SAP ERP」の保守サポートを2027年末まで延長 - クラウド Watch
出典:Discussing SAP Maintenance and Maintenance Strategy - SAP Learning

3. 基幹システムを見直す機会を失う

第三に、そして最も重要な点として、この移行期限は「強制的に立ち止まって考える機会」を与えてくれているということです。長年の運用で複雑化・ブラックボックス化した基幹システムを、ゼロベースで見直すチャンスは滅多にありません。

「システム移行」で終わらせない3つの視点

S/4HANA移行プロジェクトが「失敗」と評価されるケースの多くは、技術的な問題ではなく、プロジェクトの位置づけそのものに原因があります。システム移行を経営改革として成功させるために、押さえるべき3つの視点を解説します。

視点①:Why(なぜ移行するのか)を経営層と握る

最もよくある失敗パターンは、IT部門主導で「技術的なマイグレーション」として進めてしまうケースです。経営層の関与が薄いまま進行し、稼働後に「結局、何が変わったのか分からない」という評価に終わります。

プロジェクト開始前に、経営層を巻き込んで「なぜこの移行を行うのか」「移行後に何を実現したいのか」を明確にすることが不可欠です。コスト削減なのか、経営情報の可視化なのか、業務効率化なのか。目指す姿によって、移行の進め方もシステムの設計思想も変わってきます。

経営目標が明確であれば、プロジェクト中に発生する無数の判断(カスタマイズの要否、スケジュール調整、追加投資の判断など)にも一貫した基準で対応できるでしょう。

視点②:What(何を変えるか)を現場と設計する

S/4HANA移行の真価は、業務プロセスの見直しにあります。しかし、現場部門の参画なくして業務改革は実現しません。

「今のやり方をそのままシステムに載せ替えてほしい」という要望は、現場からよく出てきます。しかし、長年の運用で積み上げられた非効率な業務フローや過剰なカスタマイズをそのまま移行しても、新システムのメリットは享受できません。

プロジェクト初期から営業、製造、経理といった各部門のキーパーソンを巻き込み、現行業務の棚卸しを行うことが重要です。「なぜこの作業をしているのか」「本当に必要なのか」を問い直す機会として活用しましょう。

一方で、現場の声をすべて受け入れると過剰なカスタマイズに陥ります。標準機能で対応できる範囲と、真に必要なカスタマイズを経営判断として線引きすることが求められます。

視点③:Who(誰が担うか)を見据えて体制を組む

S/4HANA移行プロジェクトは、多くの企業にとって外部パートナーの支援なしには進められない大規模プロジェクトです。しかし、外部に丸投げしてしまうと、稼働後の運用・改善に支障をきたします。

プロジェクト期間中から、社内人材の育成を並行して進めることが重要です。外部コンサルタントやベンダーの知見を「借りる」だけでなく「吸収する」姿勢でプロジェクトに臨みましょう。

具体的には、外部メンバーと社内メンバーの混成チームを組み、要件定義や設計の議論に社内メンバーが主体的に参加する体制が有効です。稼働後に「なぜこの設計にしたのか」を社内で説明できる人材がいるかどうかで、システムの保守性は大きく変わります。

将来的には、軽微な改修や運用改善を社内で完結できる体制を目指すことで、システムの継続的な進化が可能になります。

中堅・中小企業がS/4HANA移行で陥りがちな落とし穴

S/4HANA移行に関する情報の多くは、大企業向けに書かれたものです。中堅・中小企業が移行を検討する際には、自社の実情に即した判断が求められます。

落とし穴①:大企業向けの「正解」をそのまま適用してしまう

大手コンサルティングファームやベンダーが提示するベストプラクティスは、多くの場合、大企業の事例に基づいています。グローバル展開、複雑な組織構造、大規模なIT部門を前提とした方法論を、中堅・中小企業にそのまま適用しても機能しません。

自社の規模、業種、経営課題に合った「身の丈に合った移行」を設計することが重要です。

落とし穴②:過剰なスコープで予算・期間が膨張する

「せっかくの機会だから」と、あれもこれもとスコープを広げてしまうケースがあります。結果として、予算超過や期間延長を招き、本来の目的を見失ってしまいます。

中堅・中小企業では、リソースに限りがあることを前提に、優先順位を明確にした段階的なアプローチが現実的です。まずは基幹業務の移行を確実に成功させ、その後に周辺領域の拡張を検討する進め方が有効でしょう。

落とし穴③:「安さ」でパートナーを選んでしまう

移行プロジェクトのパートナー選定において、価格だけで判断してしまうケースがあります。しかし、経験の浅いパートナーを選んだ結果、手戻りや追加費用が発生し、結局は高くつくことも少なくありません。

重要なのは、中堅・中小企業の実情を理解し、経営視点でプロジェクトを推進できるパートナーを選ぶことです。技術力だけでなく、経営課題を理解し、自社の立場に立って伴走してくれるかどうかを見極めましょう。

落とし穴④:インフラのサポート終了を見落とす

SAP ERPの延長サポートとは別に、OS・データベース・ハードウェアのサポート終了時期も考慮する必要があります。例えばWindows Server 2016は2027年1月12日に保守終了となり、古いバージョンのECCでは新しいOS環境への移行が困難になる可能性があります。SAP製品単体ではなく、システム全体のライフサイクルを見据えた計画が求められます。

出典:SAPの2027年問題とは?移行の注意点を解説 - NECソリューションイノベータ
出典:SAP ECCのサポート期限は大丈夫? - 電通総研

まとめ:経営改革としてのSAP移行を成功させるために

SAPの2027年問題は、避けて通れない課題であると同時に、経営改革を推進する絶好の機会でもあります。2027年という期限を「締め切り」ではなく「スタートライン」と捉え、戦略的に移行を進めていきましょう。

株式会社YOHACKでは、経営とITの両面から中堅・中小企業のDX推進を伴走型で支援しています。DX構想・戦略策定から実行計画立案、プロジェクト推進、社内コンサルタント育成による内製化支援まで、一気通貫でサポートいたします。

SAP移行をどう進めるべきか、自社に合ったアプローチを知りたい方は、お気軽にご相談ください。

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